C・Dラボ

ソフトバンクの「ショートタイムワーク制度」が問いかける、新たな「働き方」

ソフトバンク株式会社が2016年から導入している「ショートタイムワーク制度」は、障がいにより長時間勤務が難しい人が「週1日・4時間」といった超短時間から働ける制度。障がい者雇用の先進的な取り組みとしてだけでなく、あらゆる人たちの働く機会を広げる新たな雇用モデルの実践例としても注目されています。この制度について、ソフトバンク株式会社 人事総務統括 CSR統括部 CSR部 CSR1課の木村幸絵さんと横溝知美さんにお話をうかがいました。

2019.03.20
C・Dプラクティス

週1日・4時間勤務から。障がい者の超短時間就労を可能に

「ショートタイムワーク制度」とはどのような制度なのでしょうか。

木村 幸絵さん木村さん(以下敬称略):発達障がいや精神障がいなどの理由で長時間働くのが難しい方が超短時間でも働ける制度です。日本の障害者雇用率制度では法定雇用率が定められており、1企業45.5人以上を雇用している民間企業は障がいのある方を全体の2.2%以上雇用するよう義務づけられています。ところが、法定雇用率の算定の対象となるのは週20時間以上働く人に限られ、さらに、20時間以上30時間未満の勤務では、障がいの度合いにもよりますが0.5人として算定されます。そのため、障がいのある方で、週20時間未満しか働くことが難しい方は就労意欲があっても、働く機会を得づらい状況があり、福祉作業所など国が提供する雇用の場で働くという選択肢しかないことがほとんどでした。また、作業所の「工賃」は一般に全国加重平均の最低賃金を大きく下回ります。
短時間しか働けなくても、働く意欲があり、業務の遂行にも問題がない障がい者の方はたくさんいます。それにもかかわらず、企業で働く機会が得られず、本来の能力を発揮する場がない。そういう方々が週20時間以内でも働ける新しい雇用制度を作ろうということで、2016年5月から導入したのが「ショートタイムワーク制度」です。

「ショートタイムワーク制度」で働いている方々の現在の状況を教えていただけますか?

横溝さん(以下敬称略):人事総務、営業、技術、法人事業など約30部署で累計約30名を受け入れ、現在の就業者数は約20名。ADHD、自閉症スペクトラム障害、統合失調症などの障がいのある方々がほかの社員と机を並べて働いています。勤務時間は週1日、通勤ラッシュ時を避けた10時〜17時間の間に4時間が基本ですが、週2日勤務の方や、6時間働いている方もいます。業務内容はアンケート集計や郵便物の封入と発送、書類のPDF化などシンプルな業務が中心ですが、特定のスキルを持っていらっしゃる方にはチラシのデザイン制作や英訳などの業務を行っていただいています。

東京大学先端研が提唱する「IDEAモデル」をもとに制度を設計

制度誕生のきっかけは?

木村:当社は東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野(以下、先端研)と一緒に、障がいのある子どもが通う特別支援学校に携帯電話やモバイル端末を無償で貸し出して勉強や生活を支援する活動「魔法のプロジェクト」に2009年から取り組んできました。この活動を始めて現在までに、障がいのある子どもたちの教育はポジティブに変化してきましたが、就職をめぐる環境は大きく変わっていません。支援してきた子どもたちの成長につれ、教育だけでなく就労環境の課題も感じはじめ、そんなときに先端研の先生に声をかけていただき、始めたのが「ショートタイムワーク制度」です。

障がい者の就労支援にはさまざまな方法があると思いますが、なぜ「ショートタイムワーク制度」の導入をお考えになったのですか?

木村:障がいのある方の就労を阻む理由として従来の日本型雇用が持つ特徴があげられます。特徴はふたつあって、ひとつは「長時間労働」。従来の日本型雇用は週40時間以上、年間を通して働くことが前提となっています。もうひとつは、「職務定義があいまい」ということです。一般的な日本企業では「終身雇用」を前提に、どの部署でも働けるゼネラリストとしての能力が求められます。

長時間労働ができず、ゼネラリストになれない人は、採用されにくいということですね。

横溝 知美さん横溝:そうなんです。でも、発達障がいや精神障がいのある方の中には、どうしても短時間しか働けなかったり、特定の能力はとても高いのに、複数の業務を並行してやることが極端に苦手というケースが少なくありません。そうした方々がそれぞれの持っている能力を発揮できる環境を作るための一つの方法として「IDEAモデル」という新たな雇用の考え方を先端研の近藤武夫准教授が提唱され、「IDEAモデル」をもとに設計したのが「ショートタイムワーク制度」です。導入までには制度の必要性について社内で議論もあり、インターンシップのような、雇用とは別の方法も検討しましたが、やはり実際に雇用をしてみなければわからないこともあるのではということで実施が決定しました。

IDEAモデルについて教えていただけますか?

横溝:IDEAとはInclusive (インクルーシブ)and Diverse (多様な)Employment (雇用)with Accommodation(配慮)の略で、業務集中が起きている特定部署で必要な業務を、業務内容と必要時間を定義し、労働者に割り当てることにより、従来の雇用形態では就労困難であった労働者に、就労の機会を生むという新しい雇用のモデルです。

「障がい者のための仕事を用意する」という発想から抜け出る

制度の導入はどのようなステップで実施されましたか?

木村:最初は近藤先生の研究室で短時間雇用で働いていた方を2名紹介していただき、私たちが所属するCSR統括部で2015年9月から試験的に実施しました。ふたりとも発達障がいのある方でした。
ソフトバンクでは障がい者雇用が進められており、障がいの有無に関わらず一緒に働いていますが、発達障がいや精神障がいのある方は少なく、実施前は私たちも少し不安があったというのが正直なところです。

でも、それは杞憂でした。業務の説明やちょっとしたハプニングが起きた時の対応に工夫はしましたが、大きな問題は何も起きませんでした。そこで、次はCSR統括部が所属する人事総務統括部全体で受け入れを開始したところ、やはり大きな問題は起きず、最終的に会社全体に受け入れ希望部署の募集を知らせました。

制度を会社全体に広げていくにあたり、工夫されたことはありますか?

木村:受入部署に対し、「ショートタイムワーク制度」の取り組みの考え方や、業務内容を明確に定義することの重要性や、障がいのある方と働くための心がまえなど基本情報はしっかり理解していただくようにしました。最初は受入部署が増えるごとに細かいことまで説明していましたが、社外に制度を広めていくための導入ガイドを2016年9月にまとめた時に社内向けにもガイドを用意したので、現在は導入がよりスムーズになりました。

また、当初は「発達障がいや精神障がいのある方々にお願いできるような仕事はありませんか?」という「プッシュ方式」の募集をしていたところ、受け入れ側が「障がいのある方のための仕事を用意する」といった受け身の意識になってしまい、運用が長続きしないケースがありました。一方、「人手が足りなくて、あふれている業務を「ショートタイムワーク制度」を活用し働くスタッフ(以下、ショートタイムスタッフ)にお願いすれば、業務効率化できるのでは」と考えて応募をしてきた部署では運用がスムーズでした。そこで、現在はショートタイムスタッフに適した業務の例を挙げ、「部署のスタッフだけでは対応できないこんな業務はありませんか? 解決のためにショートタイムスタッフの手を借りる手がありますよ」といった「プル方式」の募集メッセージを発信しています。

現在はどのようなルートでショートタイムスタッフの採用をされていますか?

木村:本制度についてご理解いただいている、就労移行支援事業所などの就労機関、障がいのある方のサポートをしている福祉団体などに紹介をしてもらっています。「ショートタイムワーク制度」の概要や目的と、勤務地や仕事内容、求める人物像について支援機関に説明したうえで求人票を送り、求人に合う人材がいないかヒアリングをしています。

障がいのあるスタッフと働くからといって身構える必要はない

受入部署の社員の反応はいかがですか?

左:木村 幸絵さん 右:横溝 知美さん横溝:最初は「本当に業務をこなせるのだろうか」「たくさん配慮が必要なのでは?」と心配していた社員もいたようですが、実際に一緒に働きはじめてみると、ショートタイムスタッフの仕事に問題がないことがわかり、「普段後回しになりがちだった業務をやっていただいて、とても助かっている」という声が多いです。ショートタイムスタッフが真摯に仕事をする姿に刺激を受け、「自分も頑張ろうと思った」と話す社員もいます。

一方、日々一緒に働くなかで、思いもよらないことが起きることもありますし、ショートタイムスタッフは業務に慣れるのに少し時間がかかる傾向があるように感じています。でも、障がいの有無にかかわらず業務でハプニングが起きるのはよくあることですし、相手の得意・不得意を理解し、お互いのできることを生かしながら一緒に仕事を進めていくことが大切なのは一般の社員と変わりありません。「障がいのあるスタッフと働くからといって身構える必要はないことがわかった」と話してくれる社員も多く、これは大きな成果だと考えています。

ショートタイムスタッフからはどのようなご意見を聞いていらっしゃいますか?

横溝:これまで企業での就労経験がない方や、ブランクが長い方がほとんどで、「短時間でも働ける環境がありがたい」「自分が企業で働けるとは思っていなかったので、うれしい」と言ったコメントをいただいています。中には新たに目標を見つけて、進学や転職に挑戦された方もいて、この制度を実施して良かったなと感じました。

企業間で連携し、「ショートタイムワーク制度」を世の中に広めたい

「ショートタイムワーク制度」の今後の取り組みについてお考えになっていることがあれば、教えてください。

木村:受入部署やショートタイムスタッフの人数を少しずつ増やしていきたいです。同時に、今後はさまざまな企業や自治体、団体等で「ショートタイムワーク制度」を実施いただき、この働き方を世の中に広めていきたいと考えています。実際にこの取り組みが社会でどれくらい広がっているかをとりまとめ、見える化することを目指し、2017年2月に先端研と一緒に「ショートタイムワークアライアンス」を立ち上げ、おかげさまで2019年2月現在、参加企業・団体数が100を超えました。定期的にカンファレンスを開催したり、WEBサイトなどを通して情報発信をしています。

先ほど、社外に制度を広めるための導入ガイドも早い時期に作られたとうかがいましたが、積極的に社外との連携を進めている理由は?

木村 幸絵さん木村:ショートタイム制度のベースとなる「IDEAモデル」は「業務ありき」で、その業務を遂行できる人を紐づけるという考え方なんですね。だから、よく皆さんから「いずれ長時間勤務で働いてもらうためのステップとして制度を導入されたのですか?」とご質問を受けるのですが、そうではありません。担当していた業務がなくなれば、配置転換や職務転換はなく雇用は一旦終了することになります。雇用継続を第一義にしてしまうと、結局は従来の日本型雇用のようにゼネラリストが求められ、得意・不得意のある人はまた排除されてしまうことになりかねません。そうならないよう「この業務をやってほしい」という需要に人をマッチさせるというモデルになっているんです。

業務がなくなれば雇用が終了するわけですから、働き方は不安定ですが、「ショートタイムワーク制度」が社会全体に普及し、一人の人が得意なことを生かしてさまざまな企業で働くことが当たり前になれば、雇用がある程度担保されます。そのために、一社でも多くの企業や団体に「ショートタイムワーク制度」を実施していただくことで、誰もがそれぞれの能力を発揮して働ける社会を実現できたらと考えています。

また、「人生100年時代」と言われる今、一つの会社に依存する働き方にリスクを感じる人も増えてきています。一つの組織に依存しない新たな働き方としても「ショートタイムワーク制度」は大きな可能性を秘めていると思いますので、障がいの有無にかかわらず、多くの人に知っていただけたらうれしいです。

ショートタイムワークアライアンス特設ページ

お話を伺った方:

ソフトバンク株式会社
人事総務統括 CSR統括部 CSR部 CSR1課

課長 木村 幸絵さん
横溝 知美さん

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