C・Dラボ

ジュピターテレコムの企業内大学に見る、企業研修の発展形―「研修のみんな化」で組織力を高める

企業が人材育成のために社内に学びの場を設け、社員が複数の講座の中から学びたいものを選んで受講できる「企業内大学」。1953年に発足したGEのリーダー研修センターが原型と言われ、その後米国で発展してきた研修制度ですが、近年は日本国内でも重要性が見直され、開設する企業が増えています。
企業内大学は社員のキャリア開発においてどのような意義を持ち、企業に何をもたらすのでしょうか。また、企業内大学を効果的な制度にするためのポイントは?2017年に企業内大学「J:COMユニバーシティ」を設立した株式会社ジュピターテレコム 人財開発部の川村豊さんにお話をうかがいました。

2019.03.25
C・Dプラクティス

強制型研修に限界を感じ、社員が自発的に学ぶ仕組みを作らなければと考えた

まずは、企業内大学を設立された経緯を教えていただけますか?

川村 豊さん当社には「人材教育は"コスト"ではなく"投資"」という考えがあり、もともと研修の実施には積極的でしたが、2014年4月のジャパンケーブルネット(JCN)との経営統合後は、研修の実施回数がそれ以前の年間400回から1400回に増えていました。経営統合に伴って制定した新たな企業理念を浸透させるために、契約社員、派遣社員を含む約1万7000人の社員全員を対象とした年1回の「企業理念研修」を2016年からスタートしたからです。

自分の会社が大切にしている理念や価値観を理解し、共有することは人材教育の幹となるものですし、M&Aで多様なバックグラウンドを持つ社員が集う会社では仲間意識を育むきっかけにもなります。企業理念研修は当社にとって欠かせない研修でありましたが、結果的に研修の数が一気に増え、また、企業理念研修以外の研修も強制型が中心だったために、受講者に受け身の姿勢が見られるようになってしまったんです。

例えば、こんなできごとがありました。当社の本社には6部屋セミナールームがあり、毎日いろいろな研修が行われているのですが、あるとき研修のために来た社員から「どの部屋に行けばいいですか?」と聞かれたので、講座名を確認したら、「わかりません」と。自分が何の講習を受けるのかを把握していなかったんですね。「これではいけない、社員が自発的に学びたくなるような仕組みを作らなければ」という発想から、手挙げ式で参加する講座を中心としたスキームに転換を図り、誕生したのがJ:COMユニバーシティです。

7学部を設置し、経験豊富な定年再雇用人材を学部長に任命

J:COMユニバーシティのカリキュラムについて教えていただけますか?

J:COMユニバーシティのカリキュラム企業理念研修や階層別研修を通じて当社の社員としての「あるべき姿」を見につける総合学部や社員それぞれの自律的なキャリア開発をサポートするキャリアデザイン学部のほか、部門ごとの知識やスキルを学べる経営管理学部、お客さま対応学部、技術学部、情報システム学部、メディア学部、7学部があり、2018年度の開講講座は100タイトル以上。学部長を務めているのはそれぞれの分野で部長以上の経験を持つ社員で、定年再雇用者が中心です。企業理念研修と階層別研修は受講必須ですが、そのほかの講座は部門を超えて自由に選択できます。

お客さまサポート本部の社員が技術学部の「施設見学で学ぶJ:COMの知識」といった講座を受けたり、情報システム本部の社員が経営管理学部の財務諸表関連の講座を受けられるということですね。

そうなんです。これまでカスタマーセンターや営業の社員が技術の現場を見たり、最新の技術をつぶさに知る機会はほとんどありませんでした。例えば、ケーブルテレビの設置の際にはお客さまのお宅に引き込む信号線に保安器というものを設置するのですが、保安器の基礎知識はあっても実際に見たことはなかったり、そこにどんな技術が活用されているかまでは知らないままお客さまに対応することがほとんどだったんですね。ところが、部門を超えて学べる仕組みができたことにより、「知識が広がり、お客さまに自信を持って対応できるようになった」といった声が、どの学部の講座でも寄せられています。また、社内講師による講座も多いので、「社内にこんなにすごい人がいると知り、会社が好きになった」「経験に裏づけられたお話に感銘を受け、自分も頑張ろうと思った」と話してくれる参加者も多いです。

学部長を務められているのが、各部門の管理職経験を持つ定年再雇用の社員というのも非常にユニークですね。学部長はどのように選び、どんな役割を担われているのですか?

各部門の部門長から推薦された社員が務め、講座のプロデュースをお任せしています。部門ごとに必要な知識やスキルを熟知した人物が講座を企画するので、研修内容が実際の業務にひもづいており、どの講座も「学んだことをすぐに実践できる」と社員に好評です。講師は学部長が指名し、開校後これまでに120名を超える社員が登壇しました。外部から講師を招くこともあり、学部長は人脈も豊富なので、映画配給会社の社長さんによるコンテンツ・ビジネス講座や海洋冒険家による講演といった多彩な講座を実現できています。

学部長を定年再雇用人材にお願いすることにしたのは、創業期に会社を担ってきた人たちが定年を迎えてラインから外れ、知見が継承しづらい状況をもったいないと感じていたからです。また、学部長という責任のあるポジションを担ってもらうことによって、ご本人の働きがいの創出にもなり、後進の育成により「ジブンゴト」として取り組んでもらえるのではと考えました。実際、どの学部長も熱意を持って学部を運営しており、講座のアイデアも次から次へと出してくれています。

学部長は少人数の塾形式で自身の出身部門のプロを育てる「プロ人財育成塾」の講師も担当しており、2017年度、2018年度ともに定員を上回る応募者が集まりました。学部長には部門の有名人が揃っているので、「あの人に学びたい!」という社員がたくさんいるわけです。昔で言うと、「松下村塾」のようなものですね。

社員が会社を惚れ直してくれるような学びの場を作りたかった

知識や技術を学ぶだけでなく、部門を超えて「人」を知り、交流できる場になっているんですね。

川村 豊さんそれがJ:COMユニバーシティの最も大きな特徴です。背景をお話ししますと、当社の研修はもともとほとんどを外部講師に依頼していたのですが、企業理念研修をスタートした時に、講師には当社の過去をよく知る経験豊富な社員が適任だと考えて、定年再雇用者を中心とした10名にお願いしたんですね。すると、身近な社員が自分の経験談や過去の事例を交えて話をするものですから、受講者が腹落ちしやすく、愛社精神にもつながることがわかりました。そこで、講師の内製を進めたいというのもJ:COMユニバーシティ設立の前提としてあったんです。

また、構想にあたって、私自身が抱いていたのは「会社の仲間とつながり、会社が好きになる場を作りたい」という思いです。私には15年間の営業経験があり、そのうちの10年間は営業の指導員としてホテル住まいをしながら全国各地の拠点を回る生活をしていました。全国の仲間と一緒に仕事をし、苦労も感動もわかち合う毎日の中で気づいたのは、当社には素晴らしい人、驚くような専門知識を持った人たちがたくさんいるということです。ところが、その事実が会社全体にはあまり知られておらず、部門ごとに閉ざされていることをすごくもったいないと思っていました。

そこで、これまでもフットサル大会や野球大会、ロックフェスといったイベントを企画して、社員同士をつなげる場を作ってきたのですが、やはり、そうした場で社内のいろいろな人と知り合って協働し、仲間意識が生まれると、会社が好きになれますし、働くモチベーションも湧くんですよね。だから、研修も社員が会社を惚れ直してくれるような場にしたかった。そのためには、これまでのように人事部が作ったものを提供するのではなく「研修のみんな化」が大事だと意識していました。「こんな人の話を聞きたい」というアイデアをみんなで出し合って、みんなで学び、部門を超えた人と人とのつながりも生まれれば、「もっと学んで、成長したい」と社員一人ひとりが自然に思うようになるし、結果的に組織力も高まると考えたからです。

社内講師の姿に刺激を受け、「自分も登壇したい」と手を挙げる社員が出てきた

J:COMユニバーシティ開設後、社員にどのような変化が見られましたか?

川村 豊さん年間一人あたりの受講時間が増え、内訳もこれまで受講時間の約8割が強制型研修だったのに対し、現在は6割を選択科目が占め、自ら学ぼうという意識を持った社員が増えてきています。意外だったのが、管理職の受講も多いこと。J:COMユニバーシティ開設前は管理職を対象とした研修があまりなく、企業理念研修と管理職新任時の研修くらいだったんですね。ところが、全社員を対象とする講座を数多く開設したら、管理職が積極的に参加するようになりました。管理職層の「学び」に対する潜在的な需要の高さがわかりました。

また、面白いのが、社内講師に刺激を受けて、「自分も講師として登壇したい」と手を挙げる社員が出てきたことです。これは外部講師による講座が中心だったかつての研修制度では起きなかったことです。身近な存在である社内講師だからこそ、「これまでのキャリアで得た知識やスキルを自分もみんなに還元したい」「頑張って仕事をして、みんなに何かを伝えられるような存在になりたい」という気持ちが湧いてくるのだと思います。

社内講師をやりたいという社員には、どんどん挑戦してもらっています。というのも、社内講師の様子を見ていますと、人前に立って話すというのは相当な準備が必要ですから、実は講師自身がものすごく成長するんです。講座を受講することで学ぶだけでなく、受講をきっかけに「自分も登壇したい」という意欲を持ち、それがさらに自己研鑽につながるという好循環が生まれているのがうれしいですね。

他部門の仕事を知ることにより、社員のキャリアの選択肢も広がる

J:COMユニバーシティで他部門の知識を学ぶことにより、「他部門で働いてみたい」と考える社員も出てくるのではと想像します。

当社はジョブローテーションが活発で、なるべく長年ひとつのポジションに固定することがないよう人員配置をしたり、異動を希望する社員は新天地で活躍できるよう応援するといったことを積極的にやっています。ただ、これまでは自分が経験してきた部門の延長線上で将来のキャリアを考える社員が多数派だったと思うんですね。でも、J:COMユニバーシティで他部門の仕事を知る機会が増えると、「自分が培ってきたキャリアが部門間で持ち運びできるものだと気づいた」という社員の声を聞くようになりました。例えば、メディア部門でキャリアを積んできた社員が、自分の経験を生かせる場は経営や営業などほかの部門にもあると感じたりする。そういう意味で、J:COMユニバーシティという場があることによって、社員のキャリアの選択肢も広がっているのではと思います。

学びの場を通じて社員同士が出会い、お互いに刺激を与え合いながら成長することで、個人のキャリアの可能性が広がり、組織も強くなる。お話をうかがって、J:COMユニバーシティはこれまでの人材教育の概念を変える革新的な取り組みだと感じました。本日はありがとうございました。

お話を伺った方:
株式会社ジュピターテレコム
人財開発部 人財開発部長
川村 豊 さん

1999年、J:COM茨城入社。営業実績を評され、本社異動後10年間セールストレーナーとして活躍。2011年横浜テレビ局営業局長就任。2014年4月より現職。

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